一般男性に占める男性不妊の割合は7%

一般男性のうち約7%が男性不妊だというデータがあります。
北米で4.5〜6%、オーストラリアで9%、中央および東ヨーロッパで8〜12%と国によってバラツキがありますが、概ねのそれぐらいの割合で男性不妊患者の存在が確認されています。

男性は一生精子を作ることができると言われてきましたが、35歳あたりから徐々に下降傾向にあり、60歳前後で大幅に造精機能が衰えます。

不妊は女性を主体として考える時代が長くあり、女性に比べ男性不妊についての研究は多くありませんでしたが、最近の研究では不妊の半分は男性が要因だと言われています。
男性不妊は決して珍しいものではないため、男性も積極的に妊活を考える必要があるといえます。

出典

https://academic.oup.com/humupd/article/21/1/56/614758
https://link.springer.com/article/10.1186/s12958-015-0032-1

基準値を下回ると妊娠確率は5%以下

精液検査をして、基準値以下の数字になると男性不妊症と診断されます。
WHO(世界保健機関)により基準値は決められており、精子量1.5mL以下、精子濃度が1,500万/mL以下、運動率が40%以下となると男性不妊と診断されます。
なお、この基準値は一年間妊活しても妊娠確率が5%以下である状態を指します。

女性の排卵は月1回なので年間で12回の妊娠チャンスがあると言えます。
精子の状態がWHOの基準値以下の場合に可能性はゼロではありませんが、かなり低い妊娠確率だと言えます。

男性不妊の疾患一覧

男性不妊には様々な疾患がありますが具体的にどのようなものがあるかご説明します。
このデータは2015年に日本の生殖医療泌尿器科を中心に男性不妊患者7,253名を対象におこなった調査結果です。

原因不明(42.1%)

原因が明確でない場合に突発性と診断されます。医師も患者の生活を逐一監視しているわけではないため、患者がどのような生活をしているか把握することは難しいものです。生活習慣が原因で発生する活性酸素により体が酸化すると、精液所見が悪くなる可能性があります。

精索静脈瘤(30.2%)

精巣付近の血流が逆流することで精巣が熱を帯び、精巣が精子を作りにくくなる症状です。
精索静脈瘤はグレード1〜3に分類されます。グレード3がもっとも状態が悪く陰嚢が凸凹して腫れているように見え、グレード2では陰嚢を触ることで腫れを確認できます。確実に検査結果を判定するときはエコー検査を実施します。
精索静脈瘤は血液の逆流により発生するので手術を実施することで治すことが可能です。

その他の造精機能障害(10.1%)

その他の造精機能障害として多いのは、精巣が腹部に収納され陰嚢内に下りてこない「停留精巣(1.6%)」。先天的な異常であるクラインフェルター症候群などの「染色体や遺伝子異常(4.4%)」。抗がん剤や発毛剤などホルモンに影響を与える薬剤を服用している場合の「薬剤性(1.8%)」などがあります。
 

性機能障害(13.5%)

ストレスや心因性などが原因で勃起しない「勃起障害」や、膣内で射精できない「膣内射精障害」などが性機能障害としてあります。膣内射精障害は刺激が強い自慰行為により発生することが多いため、適切な自慰行為に変更するなど日々のトレーニングにより解決することができます。

閉塞性性路障害(3.9%)

主に幼児期のヘルニア手術などが原因で精子の通り道が閉じたことにより発生する症状で主に閉塞性無精子症と診断されます。閉塞性無精子症は普通に射精はできるので精液検査をしないと発見できません。しかし精巣内では問題なく精子が作られているため、手術で精巣から精子を取り出して顕微授精を行えば子供を持てる可能性があります。

男性不妊で一番多いのが「原因不明」

男性不妊のなかで一番多いのが原因不明で42%を占めます。
精子は74日かけて精巣で作られるのでその期間中に多くの酸化ストレスにさらされます。熱、ストレス、タバコ、不規則な生活習慣など様々な理由によって体内の酸化が促進されますが、はっきりとした原因が特定しずらいため原因不明と診断されます。
また精巣が精子を作る力を持っていない非閉塞性無精子症なども原因が特定できないことがほとんどです。理由がわからないのに無精子症と診断されるのは患者にとって非常に苦しいことです。この分野の医学の発展が望まれます。

出典

http://www.j-andrology.org/news/web2017118.pdf

診断時の精液所見で6分の1が無精子症

日本における男性不妊患者7,253名を対象とした大規模調査データによると精子所見の内訳は以下になっています。

男性不妊所見の割合

  • 無精子症(17%)
  • 高度乏精子症 & 精子無力症 (21%)
  • 乏精子症 & 精子無力症 (20%)
  • 乏精子症 (14%)
  • 正常 (22%)
  • 検査自体なし (7%)

この調査結果によると、検査をした6分の1の患者が無精子症と診断されていたことになります。

検査で精子が見つからないと無精子症と診断されますが、精液初見は日々変化します。
実際に一度は無精子症と診断されたが再検査で精子が見つかった事例もあります。
そういった高度乏精子症を含めると3分の1の患者がほとんど精子が見つからないことになります。

対象を男性不妊患者ではなく一般男性に広げた場合にどれぐらいの割合で無精子症がいるかというと、昔から一般男性の約1%が無精子症とも言われています。このように無精子症は決して珍しいものではないといえます。

統計上は一般男性の7%が男性不妊だとして、その多くが原因不明だとするとかなりの数の人が原因不明に悩まされ、改善方法が分からず戸惑っていることが推測されます。

染色体異常や精索静脈瘤など検査で発見される原因もありますが、生活習慣が影響して精子の造精障害が起きている場合は医師でも原因の特定が難しくなります。
 

不妊治療への対応

不妊治療には精子が1匹いればよいと昔は言われておりましたが、近年では精子の質が注目されています。DFI検査という精子のDNA断片化指数を図る検査により、見た目が綺麗な精子でもDNAが断片化している場合があることがわかっています。

卵子には長旅で傷ついた精子のダメージを回復させる機能を備えており、DNAが断片化した精子を回復させると考えられていますが、ダメージが大きい場合は完全には治らず胚盤胞まで育たなかったり、受精卵の成長を妨げることが考えられます。

つまり、不妊治療を女性任せにしていてはうまくいかない可能性が高くなります。
男性も精子の質を上げる努力をして二人で妊活することが望まれます。